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「日米」強化に米国の忍耐を期待

2010年1月8日   

 

<<相互理解が完全に欠如>>


 日米間の信頼関係は最悪の状態にある。

 日本の総理が米国の大統領に会って説明しようとしても会ってくれない。その代わりに国務長官との会話で理解を得られたと言っていると、国務長官はわざわざ駐米日本大使を招致して、理解など示していないことを明らかにした。

 日米間の相互理解がここまで欠如した前例を探すと、一つ思いだすのは「ニクソン・ショック」である。1969年の佐藤栄作総理とニクソン大統領の首脳会談で、ニクソン氏は沖縄返還を約し、佐藤総理は対米繊維輸出の自主規制を約束した。これは表向きには「善処する」の誤訳だったとされているが、当時私が内部で聞いた話では、陪席者が、ここまで言って大丈夫かと思ったほど、まさに昨秋の首脳会談での鳩山由紀夫首相の「トラスト・ミー」と同じような強い表現だったと言う。

 その後米側からは、約束の実行を迫る意思表示がしばしば行われたが、日本側は結論の出ない交渉を続けるばかりであった。そして1971年、日本の頭越しの米中接近と、ドルの金本位制離脱の二重のショックが来た時は、米国の情報通は、それを日本側の背信に対する罰だと説明していた。


<<描きづらい今回シナリオ>>


 その打撃は甚大であった。ドルの金本位制離脱は日本の経済に戦後最大の不況をもたらした。そして、中国問題では、日米の対中政策協調は修復不可能な打撃を受けた。それまで同盟国として一枚岩だったのが、現在に至るまで、日米間に共通の対中政策が存在しない状態が続いている。またそれは日本の内政にさえ影響を与えた。

 当時私はワシントンで、牛場信彦駐米大使と、どうしてこうなったのだろうと話し合った。そこで気がついたことは、1969年の約束以降その時まで、1970年の国連総会で短い首脳会談があった以外に日米首脳が全く会っていないことだった。「もし首脳同士が会っていれば、米政府内の微妙な政策の変化の兆しを感知して、ニクソン・ショックを避け得たかもしれない」と言うのが、牛場大使と私の歎きだった。

 しかし、現在の日米関係から類推すると、あるいは、米側としては、日本側から繊維自主規制の約束を守るという言葉を聞けない限りは首脳会談の必要はない、という態度だったのかもしれない。

 日米間の意思疎通が、ここまで欠けた場合、心配になるのは、ニクソン・ショックの時と同様、経済と対中政策の問題である。その上に米軍基地の問題もある。

 今すぐどうというシナリオは思い当たらないが、将来は少し先のことさえわからない。1970、71年当時も実際にそうだった。

 今回の日米危機に投影すれば、現状では予想されなくても、ドルとそれにペッグ(連動)した人民元とが大幅の円高を実現すれば、日本経済は大打撃を受ける。

 米軍基地の問題はもっと深刻である。日本には冷戦以来の、日米同盟弱体化を図る左翼勢力がまだ残っている。日米間の軍事的連帯が緩む場合、彼らは憂慮するどころか、「負担の軽減」などと言って、それを積極的に推進し、その結果、日米同盟が修復不可能な打撃を受ける可能性がある。

 こうした事態を避ける対策は、もはや多言を要しない。それは、鳩山政権が国際的な約束を守るということである。


<<信頼回復の時期は来る>>


 しかし、むしろ、現在私が訴えたいのは米国側の忍耐である。

 普天間移転の問題が解決しなくても、それは現状が続くだけで、米側は失うものは何もない。普天間返還の合意以来、15年間、事故は、人身事故を伴わないものが1回あっただけである。また、もし万一事故が起こってもその責任は米側になく、解決を延ばした日本側にある。

 東アジアの、いやむしろ世界の安全保障の将来を考えると、最大の問題は中国の勃興(ぼっこう)であり、これにどういう対策を考えるにしても、日米同盟は、失うにはあまりに惜しい財産である。

 一面で、日米同盟は、うんざりするほど長い時間をかけてではあるが、少しずつ理想の形に近づきつつある。集団的自衛権の問題などは、次の保守政権ではもう解決が見えている。鳩山氏の野党当時の憲法草案では集団的自衛権の行使は憲法でなく政府が決める問題としている。潜在的には日米同盟重視の民意は定着してきている。現在、日米の軍、関係官庁の間の日米信頼協力関係はかつてないと言って良いほど良好である。

 韓国の盧武鉉前政権を5年間我慢した米国である。(そう言うと、鳩山内閣はインド洋海上補給を切ったが、盧武鉉政権はアフガニスタン派兵を実行したと、韓国の方々からお叱(しか)りを受けるが)。その間疎外されていた韓国の現実主義者たちは今や政権に戻って、米韓同盟を支えている。

 やがて、日米信頼関係が回復して、同盟関係が強化される時期は必ず来る。米側に期待するのは、それまでの忍耐である。

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