by 岡崎久彦 on 2011年6月22日
米有力シンクタンク、ヘリテージ財団が、東日本大震災への日本の対応ぶりをレビューして、今後の米国への教訓とするために、報告書を発表した。
日本国内では、原発問題をめぐって、非難、弁護相交錯して泥仕合の様相を呈しているので、評価が定まるのはもっと先になろう。その意味で、米国で早くもまとまった評価は参考になる。
日本の対応ぶりについては、まず称賛である。「天災国日本は、『準備の文化』を示した。過去の災害の教訓を生かし、災害対策を準備してきたことが成果を生んだ。昨年9月の地震避難訓練には67万人が参加した。そして実際の地震に対して、日本国民は、素晴らしい規律と耐え忍ぶ能力とを示し、暴動や大混乱など は生じなかった」と、米国も準備の文化を育てるべきだと言っている。
他方、日本の対処ぶりの中では情報の伝達に問題があったと指摘している。「政府が福島原発の状況につき、満足できる情報を提供できなかったので、国民の恐れと不安感を高め、世界のメディアの憶測や誤報を招いた」とし、「日 本政府の対応の中で、最も問題だったのは、低レベル放射能にどの程度リスクが有るかを、有効に伝えることができなかったことであった」と指摘している。
これについては、「混乱が生じる理由の一つには、低レベル放射能についてはいまだ多くの科学的論争があることである」と、慎重に留保しつつも、「低レベル放射能の危険は一般に考えられているものよりはるかに少ないかもしれない」「現在の基準が危険を過大視していることを示唆する科学的証拠もある」と述べて いる。
そして、災害の真っただ中で、この問題の複雑さを説明するのは困難なことであろうと、再び留保しつつも、米国は将来の同様な危機に際して、低レベル放射能についての正確な情報の提供に努力すべきであると唱えている。
回りくどい言い方はしているが、詰めて言えば、あるレベル以下の放射能は危険でないということを、初めからはっきり国民に知らせられれば、今回の日本のような混乱は避けられるだろう、と言っているのである。
時を同じくして、注目されるのは、2008年の米ミズーリ大学名誉教授のトーマス・D・ラッキー博士の論文である。日本には、茂木弘道氏により紹介された。
これは、広島、長崎の被爆者8万6543人の健康状態の追跡調査の結果の学術報告である。
まず、長く原爆症で苦しんだ人々も含めて、被爆者の両親から生まれた子供に遺伝子上の奇形児は1人も見つかっていない。
また、低レベル放射線を浴びた母親から生まれた子供たちの方が、一般平均と比較した場合、死産、先天性異常、新生児死亡などの比率が低い。
がんについては、平均的な被爆者の人々の白血病による死亡率は、市外の2つの町のグループの人々より低かった。約20ミリシーベルトの被曝(ひばく)線量 であった7400人のグループでは、がんの死亡率の著しい低下が見られた。そして、その他の数値を挙げ、結論として、低線量放射線は日本の原爆生存者の健康に生涯にわたり寄与したことを示している、と言っている。
さらに、日本の被爆生存者において、ほとんどの臓器がんには予想されたホルミシス効果が認 められると、報告している。ホルミシス効果とは、生物に対して有害なものが微量である場合は、逆に良い効果を表すという生理的刺激効果のこと、つまり、毒を薄めると薬となるということである。
東京大学の稲恭宏博士によると、塩をどんぶり一杯食べれば人間は倒れるが、少量の塩がなくては生きていけない。ラッキー博士の報告によれば、がんについて は、20ミリシーベルトが一番良い塩加減ということになるが、博士は他の論文では、60~100ミリシーベルトが人間の健康にとっても最適の数値であろうと言っている。
たしかに私の知人でも、広島の被爆者で80歳過ぎても元気な人がいて、その親類の被爆者も皆元気で長生きだという。
そういえば、昔は皆、健康のためと言って、ラジウム温泉に入ったり、放射能が出るといわれてカルルスせんべいなるものを食べたりしたことも記憶する。
素人考えでも、人類を含めてすべての生物は、宇宙から来る放射線を浴びている地球の中で発生し、共存しつつ進化してきたのであるから、放射線があることを 前提条件として生きているのであろう。そして当然に、日光を浴びるごとにホルミシス効果の恩恵も受けてきたことは、常識として納得できることである。むしろ、放射線を全部遮断すると微生物が育たないということもあるという。
私は専門家でも何でもない。最近の米国の評論を紹介しているだけである。ここでやめるべきであろう。これ以上を語ることは、素人として口数が多すぎる。
(おかざき ひさひこ)
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