2006年1月5日 産経新聞 掲載
<<中国政府の公式見解を代弁>>
若い人と議論するのは本当に楽しいものである。最近中国の若手国際政治学者グループと話す機会があった。
本人たちの名誉のために言っておくと、全員中国政府の公式見解を代弁して一歩も引いていない。その意味で彼らの質問は中国政府の意向を知るのに大いに参考となった。ただ質疑応答ごとに、はじけるような笑いが返ってきて楽しい会話だったのである。それも論理の意外な展開を楽しむインテレクチュアル(知的)な笑いであり、賛同を意味するものでなかったことも申し添える必要があろう。
初めは型通りの問答から始まった。
問 中国は脅威なのか?
岡崎 そう思う。日本はソ連の脅威に対抗して八〇年代に軍備を増強して、世界有数の近代的海空軍力を築き上げた。現在、東シナ海での軍事バランスでは中国より優位にある。しかし日本は増強をやめてしまって、むしろ財政緊縮で航空機、艦船の数を若干減らす傾向にある。代わって中国は大増強を続けている。このままではバランスは逆転する。それは脅威である
問 中国の軍事費は主に兵隊の給料であるが
岡崎 それが今まで中国軍の一つの問題であった。だから九七年に、中国は兵力を五十万人減らして近代化に専念している。実はインフレを除いての真の二桁成長はその年からであり、実質成長を増大した上に人件費を節約している。九六年の台湾海峡危機の教訓からだろう。
それ以来の大増強はもうそろそろ十年になる。十年間の二桁成長はただごとではない。もし八〇年代の日本が二桁成長をしていたならば、空母機動部隊を持てたと思う。中国の軍事力は年々恐るべきものになりつつある
<<現在の日中関係は良好だ>>
問 憲法改正をするのか
岡崎 中国の脅威が増大すれば何とか対抗措置を考えねばならない。憲法改正は別の問題だが、そのためにも必要だ
問 日米安保協議で台湾の問題にふれたが
岡崎 日本の敗戦以来、沖縄の基地がこの地域の安全を守る役割をしていた。マッカーサーは沖縄さえあれば良いと言ったくらいだ。そこで六九年の沖縄返還共同声明で、台湾の安全は日本の安全にとって重要な要素だと日米が合意した。それ以来の問題認識であり、新しい問題ではない
問 現在の日中関係をどう考えるか
岡崎 良好である(笑)。ビジネスは何の支障もなく行われているし、民間の交流も進んでいる。小泉総理が靖国参拝してもデモも起こらない。トップで言葉のうえのやり取りがあるだけだ(笑)
問 四月には中国国民の反日デモがあったではないか
岡崎 総理参拝後はかえって反日デモはない
問 春ぐらいにはまたあるかもしれない
岡崎 ないと思う。春になっても、中国政府は、国民のデモは反政府でなく反日だという自信は持てないだろうと思う(笑)
<<日本側は窓を開けている>>
問 ビジネスにも影響ある。日本は大きな発注案件からはずされる(笑)
岡崎 それは絶対に言ってはいけない。経済はあくまでも自由でなければいけない。発注案件を脅迫に使うのは経済倫理に反する犯罪行為である。WTOの精神に反して、国際社会から糾弾される(笑)
問 両国の首脳が会えないのは不便ではないか
岡崎 日本はいつでも会う気がある。不便と思えば会いに来れば良いだけである。中国は国中に反日記念館を建てたりしている。日本側はもとより面白くはないが、それは中国の国内事情でやっていることで、そんなことを外交問題にして首脳会談を断る気などまったくない(笑)
問 アメリカはしきりに中国と接近したがっている。ゼーリック(米国務副長官)が言っている
岡崎 ゼーリックは確かに言っている(笑)。ブッシュ政権の中でゼーリックは中国が頼みにしても良いのだろう(笑)。もっとも政治問題は彼の所管外だが(笑)
問 今の日中関係は悪くても、次の世代には良くなるように期待しています
岡崎 あなた方は四十歳そこそこだ。文革後に大学に入った世代でしょう。次の世代はまだ十歳だ(大笑)。あなた方の世代で良くすればよいではないですか(大笑)
Comentários