2008年1月22日
■東アジアにも半世紀の平和求む
<<武力放棄の交渉提案か>>
新聞では大きく取り上げられなかったが、昨秋の第17回中国共産党大会における胡錦濤報告の中に次の一節がある。
「われわれは、1つの中国の原則を基礎として、両岸の敵対状態を正式に終結させ、和平協定を結び、両岸の平和・発展の枠組みを構築し、両岸関係の平和・発展の新たな局面を切り開くことについて協議するよう厳かに呼び掛けるものである」。私は、当初から、これは重要な提案だと思っている。
台湾は従来中国に武力行使放棄を求め、中国は拒否してきた。和平協定が武力行使の放棄を意味するのならば、それは画期的なことである。そしてそれはまた台湾海峡問題の平和的解決を求める日米の政策にも一致するものである。
そしてその条件は、将来の統一でもなく、一国二制度の受諾でもなく、「1つの中国の原則を基礎とする」だけである。そしてこの「1つの中国」こそ、台湾問題の根幹であると同時に融通無碍な概念でもある。
1992年に両岸対話を行うに際しての中国側の条件も「1つの中国」の原則の承認であったが、結果としては、それが何を意味するかについては、はっきりした合意が達成されないまま翌年4月の辜振甫・汪道涵会談が実現している。
これについて、中国側は台湾が「1つの中国」の原則を認めたと言い、台湾側は、「海峡交流基金会と海峡両岸関係協会が、双方の政府から授権され、行った香港会談と、その後の進展において、両岸は『1つの中国』の表述に対していまだに具体的結論に達していない」(2005年5月5日台湾週報)と言っている。
<<国民党では中国のペース>>
また、台湾側は、「1つの中国」について中台それぞれ独自の解釈を持つという提案もしたと伝えられている。いずれにしても、「1つの中国」についての合意が会議開催の条件だという中国側の主張を棚上げにして会議は開催されている。
結論から先に言えば、私は、もし次の総統選挙で民進党が勝てば、台湾は、この胡錦濤の提案を基礎に北京と交渉を始めても良いと思っている。なぜ「民進党ならば」と言うかといえば、「1つの中国」一つをとってもこれだけ微妙な問題のある交渉であるから、台湾のアイデンティティーに信念のある人が交渉しないと安心して見ていられないということである。
馬英九氏を信頼しないわけではない。現に氏は、「統一」は支持しないし、「1つの中国」の解釈は中台別々で良い、と言っていると伝えられる。
しかし、それは従来の国民党の立場と違うし、国民党政権では、交渉の過程で結局は中国のペースに乗せられる危険があるという心配がどうしても払拭(ふっしょく)しきれないからである。
<<強い人物が交渉役になれ>>
中国側も胡錦濤は原則宣言はしたが、複雑な国内事情もあり、その詳しい内容は今後の台湾との交渉と国内の意見調整で固まるのであろう。その間中台間につばぜり合いの激しい交渉が予想され、それに堪えるには台湾のアイデンティティーについての強い信念を持った人物が交渉の表に立つ必要がある。
私は、民進党が交渉するのならば「1つの中国」の表現は妥協しても良いと思っている。
漢字一つをとっても台湾が中国文明の流れをくんでいるという認識ぐらいまでは妥協して良いのではないか。アラブ諸国の憲法には「アラブは1つ」と明記してあるのもあったと思う。それでいて共に国連加盟国である。英国の王冠の下の英連邦諸国の例もある。
具体的に言えば、台湾の国連加盟を認めるということを条件にするのが一番良い。それならば主権平等、内政不干渉、紛争の平和的解決などの国連憲章の諸原則がそのまま生きて来る。
また、それが絶対条件ならば、国民党の総統でも良い。「中立」とか「将来の統一」とか余計な条件を付けなければよい。香港の一国二制度では10年経っても普通選挙も行われていないが、そんなことよりも恐ろしいのは、香港の自由な時間が刻々減ってあと40年しか残っていないことなのである。
胡錦濤の対外政治姿勢は柔軟だという説も行われている。
あるいは台湾の世論が年を追って台湾化していくのは避け難い情勢だと判断して、この数年のうちに決着を求めているのかもしれない。それならば、台湾の立場は強い。無条件国連加盟まで一歩も譲らなくて良い。
もし胡錦濤がそこまでの洞察力があり、柔軟な態度を取る政治力があるならば、東アジアにも半世紀の平和が達成される大きな夢が描けることとなる。
(おかざき ひさひこ)
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