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沖縄と米兵の知られざる「絆」

2010年4月21日 ―産経新聞 正論―


 春の甲子園高校野球での沖縄・興南高校の劇的な優勝の背後には、秘話がある。

 興南高校チームが同県内の石垣島に練習試合に行く際、天候が悪く飛行機が欠航して困っていたところ、米軍がヘリを提供してくれたそうである。

 日本のマスコミでは報じられないこの事実を私は、日本人と同時に、米国人に対しても知らせたいのである。つまり、日米両国民の間にこのような友好信頼関係が存在するということを米国人にも知ってもらいたいのである。


<<心配は摩擦に伴う後遺症>>


 最近の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題をめぐる日米間の摩擦は、どう決着するかは見見通しもつかない。米国の論調も、もう、成り行きを見守るしかないという突き放した態度である。

 私も、最近の論説では、事態の解決策などは提案せず、もっぱらアメリカ側に対して、日米同盟は、これを損なうにはあまりに惜しい日米共通の財産であるから、短気を起こさずに忍耐をもって見守ってほしい、と訴えているだけである。

 私は特に韓国の例を引いた。米国は、反米的言動を弄した盧武鉉(ノムヒョン)前政権を、5年間辛抱した。そして今や、盧武鉉時代四散していた正統的なインテリが再び李明博政権に復帰して、韓国は米国が最も信頼できる同盟国となっている。

 おそらく、米国は日本に対しても忍耐してくれるのだろうと思う。私は、それを願う。しかし、そうであっても私が心配するのは、今回の摩擦の後遺症である。

 

<<韓国やフィリピンの前例も>>


 最近、米国の海兵隊員の中には、「俺はイラクでもアフガニスタンでもいい。そこには、米国の助けを求めている人がいる。しかし、日本はいやだ。我々に出ていけと言っているではないか」という声があると聞く。

 韓国は、盧武鉉時代に、戦時における米軍の統一的指揮権の廃止を提案し、それは、2012年には、実現することになっている。

 しかし、最近の米国の軍事専門家の間では、あれは反米主義の盧武鉉氏の言葉に、短気なラムズフェルド氏(当時の国防長官)が反応した結果であり、朝鮮半島の現状から言って、統一的指揮権の廃止は時期尚早で、撤回すべきだ、という意見もある。

 ところが、それは実現しないだろうといわれている。米軍人に言わせれば、当時、韓国側は、米軍の指揮下に入るのは嫌だと言ったではないか、米国側から、もう一度指揮権を取らせてくれなどと屈辱的なことは言えない、韓国が自分の軍隊は自分で勝手に指揮したら良い、という声があるという。

 もっと極端な例は、フィリピンである。比上院が、米軍基地反対の決議を採択すると、たちまち米軍は、クラークとスービックの大基地から引き揚げて、もう二度と帰って来なかった。東南アジアの安全保障体制にとっては大きな打撃であった。つまり、覆水盆に返らずということである。

 日本がそこまで行くとは思わない。日米同盟の重要性は改めて論じるまでもない。民主党も日米同盟は礎石であると言っている。

 しかし、沖縄では、ともすれば、いったん過激な議論が出て来ると、穏健な議論は抑えられてしまう傾向がある。

 特に、政府がそれに迎合し、煽る場合は、そうなる。米軍キャンプ・シュワブがある名護市議会では、米軍基地反対派が小差ではあるが多数を占めた。

鳩山政権は沖縄の民意を尊重すると言っている。もしその言葉通り民主党支配の衆議院が同じような議決をすれば、フィリピンの上院と同じような結果をもたらす恐れがある。


<<日本人に臓器提供した兵士>>


 ここで私が米国側に指摘したいのは、沖縄の人々が決して米国人を憎んではいないということである。今回の興南高校の例は、沖縄の人々が米軍の援助を抵抗なく受け入れ、秘かではあるにしても、当然の感謝の念を持っているという証左である。

 他の例を挙げれば、ある米軍の司令官は、自分の死後は臓器を日本人に提供するという遺書を残し、それは実行されたという。また別の米軍人は、その子供の死後、臓器を日本国民に提供している。これに対して、沖縄および日本国民に感謝の念がなかろうはずはない。マスコミには報道されなくても日米友好関係の基礎は立派に築かれているのである。

 駐留米軍への就職は、沖縄の若者に人気が高く、そのテストのための予備校まであるという。米国人が憎まれていては、あり得ないことである。

 私は米国民に訴えたい。日米間の信頼関係は、厳存する。

 日米同盟関係は、過去15年間の長期的流れを見れば、明らかに強化されてきている。それが現在、混迷し、中断されているだけである。

 世界で日本人ほど親米的な国民はないという世論調査の結果もある。米国は日本と日本人を信頼して、忍耐をもって将来に希望を持ってほしい。

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