【正論】2009年6月25日
■キャンベル氏らの友好姿勢
オバマ政権は、日本に極めて好意的姿勢を示してくれている。
それはクリントン国務長官指名の上院証言に既に見られたが、彼女が真っ先に訪問した国は日本、オバマ大統領が就任後初めて迎えた外国首脳は麻生総理であった。
これは日米関係にとって画期的な出来事であり、日米双方の外交の成功だった。現にスタインバーグ国務副長官、キャンベル東アジア太平洋次官補は、ともにこれをオバマ政権の日本重視の証左として強調する発言を行っている。
しかし、当時の日本のマスコミはG20における中川財務相の挙措の粗相の方を大きく取り上げ、せっかくの米国の好意のゼスチュアを国民によく伝えなかった。
これは日本のマスコミの品位を貶(おとし)めるものであったと思う。1998年のクリントン大統領の訪中は、大統領のセックス・スキャンダル事件の裁判と日程を重ねて国民の関心をそらす意図が見え見えであり、またその趣旨の報道もあったが、それでもクリントン訪中の方が大々的に報道されていた。それが国家の利益、国家の威信に重きを置くマスコミとして当然の姿勢である。
それはともかくオバマ政権の日本に対する好意的配慮は単にゼスチュアだけではなく、米国の今後の政策に重大な意味を持つ、東アジア担当の高官の人事に端的に表れている。米国人は、欧米のことは分かっても、アジアのことを分かる人は少ない。どうしても政策は東アジア担当の専門家の知識に頼ることになる。
■日本は同盟寄与を考えよ
クリントン時代の前半、日米経済摩擦がひどかった時期、ホワイトハウス、国務省、国防総省の東アジア担当には中国専門家は居(い)ても、知日派はただ一人も居ず、日本は取りつく島もなかった。
しかし、今回は国防総省の東アジア担当は沖縄の海兵師団長を務め、日本を知っているグレグソン次官補であり、国務省の東アジア太平洋次官補には日米同盟重視のカート・キャンベル氏が新たに就任した。
日本にとって結構な話である。そこで、今度はその代わりに日本に何ができるかということである。
実は昨年、パシフィック・フォーラムなど4団体は、50名以上のアジア専門家の参加するセミナーを4回共催して、その結果をオバマ政権の新アジア政策提案として、今年2月に公表した。キャンベル氏はその報告書作成に指導力を発揮したと伝えられる。
その中で、enough!(もう沢山だ。聞き飽きた)と言っている個所がある。アメリカは日米同盟にコミットしているのだから、何時までもジャパン・パッシングなどと、うじうじ言っていないで、日本が同盟に寄与ができる方策を、日本の方から考えるべきだ、と言っているのである。
実は、キャンベル氏は民主党系では数少ない知日派の一人として、クリントン末期以来日本の政財界挙げてのキャンベル詣での煩雑さには辟易(へきえき)したといわれる。
■集団的自衛権決着を期待
しかし今回の彼の上院での質疑応答では、そんな些細(ささい)なことは気にかけるふうもなく、米国のアジア政策の中心は日米同盟にあり、そのことを日本の友人たちに保証すべきだ、と断言している。
ブッシュ政権発足直後、アーミテージ国務副長官は、日米同盟強化のために次官級の戦略対話を提唱したが、当時の日本側の外務省はそれに効果的に対応できず、氏は失意のうちに去った。それに反して後任のゼーリック氏は米中次官対話を始め、それは初回から大成功を収め、たちまちに中国はステイク・ホルダー(責任分担者)の地位を獲得した。今回も、キャンベル、グレグソン両氏の在任中に何とか日米関係を前進させようとする動きが先方からあると期待される。
日本の政情では、麻生内閣の後どうなるかは全く先が見えていない。それでもキャンベル氏が初訪日するころはまだ麻生内閣であろう。その短い期間であっても、オバマ大統領の新体制と有意義な意見交換をして、今後の日米同盟強化の路線を、一部なりとも、敷いて残してほしい。さもないと折角(せっかく)のキャンベル、グレグソン、更には、ジョーンズ、クリントン、ゲーツ各氏のチームが対日関係について早々に挫折感を持つ結果となることを恐れる。
日本がしなければならないことの焦点も定まってきた。
最近の米国の知日派の発言を見ると、前は遠慮していた集団的自衛権の問題解決への期待をはっきり言うようになってきた。次は日米同盟の抑止力維持のための日本の防衛力強化である。
日米間の当面の懸案は基地再編であるが、これは沖縄の現地事情が複雑に絡まる問題であり、中央政府の施策でどうにもならない面もあり、見通しは不透明である。その解決のために努力をすることは当然であるが、そのために、より基本的な集団的自衛権や防衛費増額の問題を後回しにすべきではない。
(おかざき ひさひこ)
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