2006年5月11日 産経新聞朝刊掲載
中国政府は対日関係を打開したいと考えている。日米関係が強固で「日米対中国」という枠組みになっているうえ、胡錦濤国家主席が四月にブッシュ米大統領と会談したが目だった成果を得られず、中国は日中友好に傾かざるを得ない状況になっているからだ。
中国側が対日関係の懸案をかかえている事情もある。旧日本軍が中国に遺棄したとされる遺棄化学兵器の処理や、日本の中国向け政府開発援助(ODA)が減額される問題のほか、これから中国が取り組む環境・省エネルギー対策には日本の技術援助が欠かせない。
中国が日米同盟の強固さを痛感したのは、十七年二月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で「台湾海峡問題の平和的解決を追求する」と宣言されたことだろう。中国が台湾に武力行使をすれば、日米は共同で反対するという意思表示であり、中国にとって相当のインパクトがあった。
さらに、今年四月の米中首脳会談で小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題を取り上げられず、少なくともブッシュ大統領|小泉首相の間は米国が靖国批判にくみすることはありえないとはっきりした。
実は、中国政府は十七年四月の反日デモ以降、日本に対し柔軟姿勢に転換している。中国政府は日本の常任理事国入りを阻止するため、「官製デモ」をやったが、デモの拡大をコントロールできなくなり、農民暴動まで起きた。共産党政権に対する不満がデモとともに噴出する危険性をはらむため、反日運動を禁止する方針に切り替えた。
だが、中国政府内の対日強硬派と反日世論が日中外交のネックになっている。胡主席は強硬派に「靖国以外では日本に甘い」と批判されており、自由に自分の意見を述べられず、「対日強硬ジェスチャー」を示さざるを得ない状態だ。
靖国批判を展開しても日本の世論が割れず、日米関係もむしろ強まり、中国の個々二、三年のこわもて外交は完全に裏目に出ている。胡主席は靖国問題で引けない状況になっているが、裏目に出たと理解しているはずだ。
中国政府は強硬派の対日批判の間をぬいながら、靖国問題だけは突っ張って、外相レベルで打開を目指す考えなのだろう。それでも日中関係は前に進むと思う。
「ポスト小泉」の首相も日米同盟を堅持しながら東アジアを安定させる方針を貫くべきだ。日米同盟にくさびを打ち込めると中国が判断すれば、あの手この手の揺さぶりをかけてくるだろう。
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