by on 2012年8月20日
消費税法案の成立は近来にない快挙である。
ただ、年来一貫して自民党支持の私として、最後の段階で自民党が解散の予定明示を要求したゴタゴタは頂けなかった。自民党は最後には合意して良識の党たることを示したが、途中では公明党の方がよほど立派な印象を与えた。
<<不信任や解散要求はヘンだ>>
解散・総選挙を求める大義名分はどこにあるのだろう。
一体改革という歴史的業績を達成したパートナーの政権の信任を問うのは、どう考えてもヘンである。「民主党がマニフェスト(政権公約)にないことをしたのだからその責任を問う」に至っては何のことか分からない。その実現に協力したのは自民党ではないか。
そもそも、従来の自民党の主張を実現してくれた民主党が内閣の不信任に値するだろうか。
その背景としての経緯は理解できる。鳩山由紀夫、菅直人という、おそらくは日本憲政史上最低の内閣が続いて、国民を不安のどん底に陥れ、民主党の命運は尽きたと思われた。それが大震災直前の状況だった。
ところが、野田佳彦内閣ができて、まずTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)加入交渉に入るという政治的に難しい決断に踏み切り、次いで自民党が半世紀解決できなかった武器輸出三原則の緩和を実施し、そして、税と社会保障の一体改革という大事業を自民党と協力して完成させた。
こういう状況と、民主党はすでに国民の支持を失ったのだから、直ちに解散・総選挙をせよという従来の主張が重なって、このような珍現象が生じたのであろう。
自民党の党利、党略からいえば、それはまだ正しいかもしれない。野田内閣はその業績にもかかわらず支持率は上がっていない。次の選挙では、自民党が勝つ可能性が大きいからである。
選挙の名分としても、そもそも当初のマニフェストからはじめて民主党がやってきたことは支離滅裂であった。それを心機一転して国家的政策に取り組むというならば、もう一度選挙をし出直してこいというのは一つの理屈である。
<<政局混迷で好機逃すべからず>>
確かにいろいろな理屈はつく。ただ、自民党にとって情けないのは、こうした議論の中で、何がお国のためか、という言葉が全く欠如していることである。
日本という国の政策遂行能力は、2007年の参院選での自民党敗北以来麻痺(まひ)している。それまでに安倍晋三内閣は戦後半世紀の懸案だった教育三法を改正し、国民投票法も制定し、防衛庁も省に昇格させた。そこまでだった。福田康夫内閣の後の麻生太郎内閣は意欲はあったようであるが、リーマン・ショックの後始末に追われているうちに総選挙の機会を逸し、任期満了の選挙に大敗した。
その間、中国の軍事力の急成長によって、東アジアの軍事バランスは一変している。経済の停滞も20年続いて、その間、他国との競争にじりじりと負けても無為無策に過ごしてきた。
それが急に三党の協力で国家的政策に取り組めるようになったのである。お国のためということを考えれば、このチャンスがある間は、それをミスすべきできない。解散・総選挙などで、また政局を混迷に陥れる余裕などない。
<<三党協力下の懸案解決に期待>>
自民、民主の協力で今すぐにでもできることはある。集団的自衛権の行使は、石破茂氏の営々たる努力の結果、7月に安全保障基本法の自民党案ができている。
野田政権としても、原則的には異存はないはずであり、自民党総務会まで通っているのだから、修正が必要ならば、話し合いで合意できることは、消費税と同じ構図である。半世紀以上の懸案の解決は目前に見えている。
もしこれについて合意ができるのならば、解散の日取りさえも確約してもかまわないと思う。これと消費税の二つで何十年に一度の名内閣と呼ばれる業績である。
政局への考慮は捨象してほしい。民主党議員の多数は、次の選挙に確たる自信のない人々である。増税反対、TPP反対、農業保護などのポピュリズムに訴えることに活路を見いだそうとするかもしれない。また、偏向教育の影響の残滓(ざんし)を頼りに、護憲論で集団的自衛権反対の立場を取るかもしれない。たとえ、それで民主党の議員のさらに多くが去っても、自民-民主の協力があれば、政策は実施できる。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるなどという説教を野田政権に向かってする気もない。個々の政治家や政党の浮沈は問う所ではない。お国が浮かべばよいのである。
ただ、なんとなく、野田総理はそのあたりのことは分かっていられるような気がする。
なお、蛇足であるが、最近訪日したカーター国防副長官は、森本敏防衛相と会談した印象を絶大な賛辞で報告している。こういう例外的な建設的対話関係が日米間にできている政権を短期で交代させるという一事をもってしても、早期退陣はもったいないと思う。
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