by on 2007年9月28日
■日中間20年の難問の一挙解決に
<<対日批判を自制する理由>>
福田総理は、10月の靖国例大祭には参拝された方が良いと思う。総理が参拝に慎重なことは重々承知しているが、客観的にこの問題を解決する機が熟しつつあるからである。
安倍前総理の「行くとも行かないとも言わない」という戦術はそれなりに成功していた。
安倍氏は、靖国参拝は正しいという原則論を曲げなかったので、評論家の石平氏などは、中国側は総理がいつ参拝するか分からないので日本を刺激する言動を抑えざるを得なかったと分析していた。
防衛庁の省昇格や、国民投票法などについて、中国が軍国主義復活などと騒がなかったのもその効果であると説明できる。
もっともこの理論だと、一度参拝してしまうと、その効果はおしまいになるので事実上いつまでも行けないことになってしまう。安倍前総理もその矛盾の打開は考えておられたと思う。昨年の8月15日以来、日本の総理が靖国参拝をしていないというのは異常な事態であり、私は、安倍前総理は留任されていればなんらかの形で10月参拝のご意向だったと思っている。
ただ私は、中国が対日批判を自制している要因はもっと深い所にあると思っている。
<<一応の抗議で決着ずみ>>
中国は天安門事件以来、国民の主要関心事を民主主義から愛国主義に向けさせようとし、そのこと自体には完全に成功した。
その結果、反日は政府がコントロールできないほど強い国民的情熱となり、それがデモとなる場合、国民の他の不満と結びついて大反政府運動となるおそれが生じ、2005年の春のデモ以来もう反日デモは許可できない状況となってしまった。
その年の秋の例大祭と翌年の8月15日の小泉総理の靖国参拝の前に、私が、反日デモは起こらないし、日本企業いじめも有り得ないから、総理は参拝しても大丈夫と判断して誤らなかったのはその故である。
しかもその間、日本国民の対中感情は一変した。それまでは中国に好感を持っていた世論は逆転して中国嫌悪となり、対中外交で日本の手を縛っていた中国コンプレックスは消滅した。これは今後一世代に及ぶ中国外交の大失敗として残ろう。
さて、靖国問題解決のチャンスが生まれていると私が判断する1つの理由は、最近の李登輝前総統訪日が作った前例である。李登輝氏は結果として、何の政治的束縛もなく訪日を達成した。そして中国は抗議をしたが、それはその後の2国間関係に影響を残していない。
実は、一応の抗議はするがそれ以上のことをしないというのは、過去の李登輝氏の訪米訪欧の際に、中国が取った措置と同じであり、日中関係も米中、欧中と同じようになったというだけのことである。
国家間にはそれぞれの事情で抗議はしなければならない時はある。ただ、それを国民生活に影響を与えるような他の問題に及ぼさなければ良いのである。
<<ハト派の保守的アジェンダ>>
もうひとつのチャンスは福田内閣の誕生そのものにある。
中国が今後の日中関係に望みを託している福田氏が靖国参拝した場合、中国は一応の抗議以上の措置を取ることができるだろうか。そうなれば福田総理は日中間20年間余りの難問題を一挙に解決したことになる。
また私が言うのも余計なことであるが、日本国内の福田支持が急上昇するであろうことは予想に難くない。タカ派の総理の靖国参拝は当然のことであり、支持率にあまり影響はないだろうが、ハト派の総理の参拝が支持率の上昇をもたらすことは素人にでも予測できる。
タカ派のニクソンが米中正常化を達成できた古典的例もある。ハト派指導者の保守的アジェンダ(実施すべき計画)解決という方式には日本でも村山内閣が「安保堅持」を言って冷戦時代以来の自社両党間の安保論争に終止符を打った例もある。
現在の保守的アジェンダの最たるものである反テロ特措法の解決は当然期待される。また、安倍訪中の裏を行って、まず訪米、ついで訪中という従来の自民党の正攻法に戻るのも有益であろう。そして、集団的自衛権の問題も緊急に解決しないと、すぐにミサイル防衛などがにっちもさっちもいかなくなるおそれが出てくる。
総理は10月の例大祭に参拝されたら良い。それが大規模な反日デモ、日本の会社襲撃に発展しないことは確実といえる。
もちろんある程度のリスクはある。中国が再び首脳会談の開催を渋るかすかな可能性もあるが、日本の国民生活に害のあるようなことはとうていできない。
(おかざき ひさひこ)
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