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訪米から見えた保守の優先課題

2013年3月11日


安倍晋三首相の訪米は成功だったといえる。

少なくとも失点は全くなかった。そして、首相がアメリカに伝えようとしたメッセージ、すなわち「日本は帰ってきた」は十分米国側に伝えられたといえる。


≪対米で今後楽観許さぬ要素も≫


成功の理由は、まず、期待値を低くしたことにある。参院選までは安全運転をするという、安倍内閣発足以来の方針は、アメリカ側に良く理解され、それについては何ら批判的な論調はなかった。

次に、オバマ米政権は2期目発足早々であり、尖閣諸島問題などについて、クリントン前国務長官が敷いた路線を国務省がそのまま継承してくれたこともあった。

そして第3に、安倍内閣発足以来、官僚の士気が見違えるほど上がった。外務省、大使館だけでなく、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などを担当した経済官僚、そして安全保障、沖縄問題を担当した防衛官僚が、事前の準備や先方との折衝に百パーセントの能力を発揮した。やはり人を使うには士気ほど大事なものはない。

しかし、今後のことを考えると楽観を許さない要素もある。

そもそも日米同盟の強化は、中国が経済的、軍事的に急成長して東アジアのバランスが大きく変わりつつあるという状況の中で、大きな戦略的意義を持つものである。右に述べた成功要因などは戦術的、技術的問題に過ぎない。

ところが、米各紙の社説を見ても、ワシントン・ポストの社説などは好意的であるが、戦略的な立場からは論じていない。わずかにウォールストリート・ジャーナルが、尖閣問題に対するオバマ氏の沈黙を批判しているだけである。

ニューヨーク・タイムズは、社説は掲げず、事前の解説記事の中で、参院選後、安倍政権が、憲法を改正し、自衛隊を改組したりして、中国を刺激し、日本の軍国主義に敏感なアジア地域での日本の孤立を招いたりするのか、と問いかけている。そして英紙フィナンシャル・タイムズも、訪米を成功と呼びつつも、安倍政権の将来に対し同様の警告を発している。


≪2つの「戦後レジーム脱却」≫


見方によっては、安倍政権は危機を未然に回避したといえる。もし、安倍政権が就任早々、靖国、慰安婦問題などに正面から取り組んでいたとしたならば、中国、そして韓国の言論工作が大口を開けて待っている中に飛び込んだ可能性があったであろう。

安倍政権は久々に真の保守主義の政権である。私は日本の保守主義には大きく分けて2つの課題があると思っている。

ひとつは戦後史観の払拭である。それは、それまで日本と戦争していた米国が日本から物質的、精神的に戦争潜在力を根絶しようとして、過去の日本の歴史と伝統は全て悪と教えた初期占領政策によるものである。その政策は、冷戦が始まると、日本を頼れる同盟国とするために修正されたが、今度は、日本の精神的無力化を図る親共左派勢力にそのまま引き継がれ、戦後の日本の左翼偏向史観を生み出した。いかなる国も、その歴史と伝統を否定されては生きられない。左翼史観の払拭は、民族の長期的課題であり、教育の現場などにおいて、今後とも進めていかねばならない。

ただ、問題は、過去の政権(教科書問題における宮沢談話、靖国参拝を中止した後藤田談話、従軍慰安婦に関する河野談話)が、この国内問題を不必要に国際問題にしてしまったことである。

いったん、それが国際問題となると、日本は孤立する。戦勝国は自らは善、戦敗国は悪という史観を決して譲らないからである。米国はさすがに意見の幅が広いが、他の旧戦勝国となると、この問題については一枚岩となる。

したがって、この問題は、もっぱら、日本民族の国内問題として対処し、国際問題としての紛糾は避けるべきである。

もうひとつの保守主義のアジェンダ(課題)は、防衛費の増額、集団的自衛権の行使容認など、防衛、安保問題における戦後レジームの脱却である。米国としては、もとよりその戦略的国益の上で反対し得べくもないはずである。


≪まず防衛安保で同盟強化を≫


これに対しては、反対勢力や中国などは第1のアジェンダと結びつけて、日本の右傾化の一部と捉えて反対するであろう。特に、憲法改正は2つのアジェンダを結びつけやすいテーマである。

1番目のアジェンダの解決を急ぐ国民感情が強いのは正当なことであるが、その2つを同時に扱うことになるのを避けるためには、2番目のアジェンダを早くクリアしておく必要があると思う。

つまり、防衛安保問題を中心とする日米同盟の強化が先決であるということである。現に小泉純一郎首相は、繰り返し靖国参拝をしたが、その前に確立した小泉-ブッシュ関係のため、日米関係はそれによって微動だにしなかった。

日米同盟強化には、参院選を待つ必要もない。集団的自衛権や防衛費増額はすでに首脳会談で明言した国際的約束である。

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