【地球を読む】集団的自衛権 政治氷河期が来る前に
2008.2.17
日本の政治は先行きが見えない。敢えて先行きを論じれば、可能性を列挙するしかない。つまり、次の総選挙で自民党が勝つが3分の2の絶対多数がなくてネジレ現象が続くか、民主党が勝って政権担当能力に不安がある民主政権が出来るか、大連立が出来るか、あるいは、政界再編が起きるか、のどれかであろうとしか言いようがない。しばらく様子を見るしかないというのが政治の玄人の態度であろうが、私はもっと急を要する事態ではないかと心配している。今の事態は、占領時代の憲法制定に際して、米側は一院制を主張し、日本側はチェック機能のある任命制の上院を主張して米側も一たん同意したが、今度は極東委員会のソ連などがその民選を主張し、結果として、衆議院と重複する強い権限を持ちながら、6年任期で、政府側には解散権がないという、奇妙な現在の参議院を作ってしまって以来内在する問題が、参院選の自民党惨敗のために顕在化したものであり、短期間で解決できるものではない。憲法改正すれば良いと言っても通常の法律さえロクに通らない現状では容易に改正できない。政党人の意識改革で国家の重要な事項については超党派の合意ができれば良いが、テロ特措法の審議状況から見ればそれも望めない。最悪の事態を予想すれば、経済に「失われた10年」があったように、日本の政治外交にも「失われた10年」が訪れる恐れがある。その10年と言えば、中国がアジアにおいても米国においても確実に影響力を増して、国際政治の力関係の再編が行われる時期であり、日本だけが取り残されて行って、ちょうど経済の「失われた10年」のあと、前と比較にならないほど矮小となった日本を発見したのと同じようになることも予想される。そうなると問題はむしろ短期的である。氷河期が訪れる前に何をしておかねばならないか、ということである。幸い小泉総理が遺した遺産として衆議院与党3分の2の多数がある。現行憲法の欠陥を補う唯一の方法として制定された制度であり、将来同じ状態が起こる可能性はほとんどないのだから、今こそこれを重用すべきである。日本国民の安全と繁栄を維持増進するという目的から見て、何が大事かと言えば、日米関係の強化が、他と較べて圧倒的に重要なことは言うを俟たない。それは福田総理の施政方針演説でも明らかにしている。これさえしておけば、外側の壁はしっかりしているわけであるから、内部の10年の混乱は耐えられる。
◆原則の承認、首相は決断を福田総理はテロ特措法を通して、日米関係の第一の関門は突破した。しかし米主要紙は社説でコメントしなかった。取り上げるまでもない当然のことということか、あるいは日本に対する関心が低下したことを示す一現象か、おそらくはその両方であったろう。わずかにウォール・ストリート・ジャーナルが、社説欄でない評論欄で、福田内閣にエールを送って来た。「日本は戦線に復帰した。これは米国の最も確固たる同盟国が国際安全保障により大きな役割を果たそうとする意欲を失っていないことを意味する」と言った上で、「日本は、小泉、安倍政権の下で、自国の防衛と国際安全保障により大きい役割を引き受けようとした。福田総理が先任者のビジョンを復活させるかどうかは、まだ分からないが、今回の表決を見ると、福田総理は、何が大事かということを理解しているようである」と結んでいる。これを見るだけでアメリカの有識者、少なくとも日本を無視しまいとしている人々の望む所は明らかである。国際安全保障、日米同盟強化により大きい役割を引き受けるという意欲を日本が持つことである。そして、最も重要なのは集団的自衛権の行使である。それは実は日本の暗黙の公約でもある。昨年春の安倍総理訪米の際アメリカ側が最も歓迎し、かつ、期待したのは、日本による集団的自衛権問題の解決であった。もとより、アメリカは、憲法改正、あるいは集団的自衛権の解釈については一貫して、「それは日本がお決めになることです」といって、内政干渉とか米国の圧力とか言われることを絶対に避けてきた。しかし、あの時期の後暫く、私が会った全てのアメリカの識者たちは、日本はいよいよ集団的自衛権の問題に正面から取り組むのですね、と誰もが顔を輝かせていた。そして訪米早々、国会開会中から、集団的自衛権見直しの作業が始まった。そしてその作業の最終回と予想された9月15日の会合の3日前に安倍総理が病に倒れられた。アメリカが期待するのは当然であることは、見直し作業の4分類のうち最初の二つの例を挙げるだけで分かる。2006年夏、北朝鮮はミサイル発射したがそれが日本に向けられている恐れもあった。米海軍はイージス艦を日本海に配備した。イージス艦はミサイルの追尾で手一杯であるから、誰かがそれを北朝鮮の攻撃から守らねばならない。しかし日本の海・空の自衛隊はそれを守るのは集団的自衛権の行使になるので守ってはいけなかった。第2分類はもっと酷い。北朝鮮が日本列島の方向にミサイルを撃ち出した場合、それが日本の頭を越えてグアムやホノルル、あるいは太平洋上の米軍基地、艦船に向かう場合は撃ち落とすと集団的自衛権の行使となるので出来ないというのである。しかも、グアムとハワイは日本を守るための基地の役割も果たしているのである。こんなことは読者の大部分もご存じないと思う。アメリカ人一般も知らない。もしそれをアメリカの一般人が知ったらと思うと、日本の安全の将来を考えて背筋が寒くなる。実はこの報告は既に出来ている。おそらくどんな国際法学者、憲法学者も正面から反論できない緻密(ちみつ)な座長説明が首相官邸のホーム・ページで見られる。後はまとめるだけである。この種の問題は、60年安保改定後の懸案でありながら岸総理が中途で退陣され、福田赳夫総理が第2期にこそは、と期待されながら「ヘンな天の声」で退陣を余儀なくされて以来の懸案である。福田康夫総理は任期一杯続けて頂きたい。そしてそれぞれ志半ばにして、無念の中に達成できなかった父祖の事業を完成して頂きたい。まずは原則の承認、これはすぐでも出来る。それは一般法の指導原則ともなろう。ついで自衛隊法の数行の手直しであるが、それは3分の2の多数があれば出来る。福田総理が話し合いで物事を「上手にやる」能力をお持ちのことは良く知っている。しかし今回は時間が無い。今は官房長官でなく総理なのだから、決断力を以って、氷河時代に備える措置を後世に遺されることを期待する。